損益分岐点分析で考える会社の利益

「今月は忙しかったのに、なぜか利益が残らない」 「売上は伸びているはずなのに、思ったほど利益が増えていない」

こうした感覚と実際の利益とのズレを、数字で整理するのに役立つのが損益分岐点分析です。

難しく聞こえるかもしれませんが、基本的な考え方はシンプルです。一度仕組みを理解しておくと、値段設定やコストの見直し、設備投資など、さまざまな経営判断に活用できます。

損益分岐点とは何か

損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。

売上高が損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字になります。

例えば、毎月の損益分岐点売上高が400万円の会社であれば、売上高400万円が黒字と赤字の境目です。

単に「もっと売上を増やそう」と考えるのではなく、会社が利益を出すために必要な売上高を明確にできることが、損益分岐点分析の大きなメリットです。

この数字が分かれば、

  • 今月、あといくら売り上げれば黒字になるのか
  • 値下げをした場合、どのくらい販売量を増やす必要があるのか
  • 固定費を削減すると、黒字化のハードルはどの程度下がるのか
  • 売上が減少した場合、どの水準から赤字になるのか

といった経営上の問いを、具体的な数字で考えられるようになります。

計算に必要な「固定費」と「変動費」

損益分岐点を計算するには、まず会社の費用を「固定費」と「変動費」に分けます。

固定費 売上高の増減にかかわらず、一定額発生する費用です。地代家賃、正社員の給与、減価償却費、保険料、システム利用料などが該当します。

変動費 売上高や販売数量の増減に伴って増減する費用です。商品の仕入原価、原材料費、外注費、販売手数料、配送料などが該当します。

実際には、固定費と変動費のどちらかに完全に分けることが難しい費用もあります。そのため、損益分岐点分析では、会社の事業内容や費用の発生状況を踏まえて分類することが重要です。

損益分岐点売上高の計算方法

損益分岐点売上高は、次の式で計算できます。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1-変動費率)
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高

「1-変動費率」は限界利益率とも呼ばれます。

限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた金額です。

限界利益 = 売上高-変動費

この限界利益から固定費を差し引き、それでも残った金額が利益になります。

つまり、損益分岐点分析では、売上高そのものだけではなく、売上からどれだけ利益を生み出せる構造になっているかを見ることが重要です。

CVP CHART
損益分岐点を可視化する
金額 売上 費用 売上 変動費率 固定費 変動費 利益 実際の売上 損益分岐点売上高

具体例で見てみましょう

月商500万円、変動費300万円、固定費150万円の会社があるとします。

変動費率は、

300万円 ÷ 500万円 = 60%

したがって、限界利益率は40%です。

損益分岐点売上高を計算すると、

150万円 ÷(1-0.6)= 375万円

となります。

この会社は、月商375万円が黒字と赤字の境目です。現在の月商は500万円ですので、損益分岐点売上高を125万円上回っています。

現在の利益を計算すると、

売上高   500万円
-変動費  300万円
=限界利益 200万円
-固定費  150万円
=利益    50万円

ここで重要なのは、損益分岐点を超えた売上高が、そのまま利益になるわけではないという点です。

この会社の限界利益率は40%ですので、損益分岐点を超えて売上が増えた場合、その売上の40%が利益の増加に貢献することになります。

このように数字を分解してみると、「売上500万円、利益50万円」という結果だけを見るよりも、会社がどのような仕組みで利益を生み出しているのかが分かりやすくなります。

損益分岐点分析を経営にどう活用するか

1. 値段設定の判断材料にする

売上を増やすために値下げを検討することがあります。

しかし、販売価格を下げても、仕入価格や外注費などが同じ割合で下がるとは限りません。その場合、1件あたりの限界利益が減少するため、これまでと同じ利益を確保するためには、より多くの商品やサービスを販売しなければなりません。

値下げを検討するときには、売上高だけではなく、値下げ後にどのくらい販売量を増やせば現在と同じ利益を確保できるのかまで計算することが重要です。

2. 設備投資と必要な売上高を検討する

会社の設立時や事業の立ち上げ時には、設備や機械、車両などへのまとまった投資が必要になることがあります。

例えば、事業開始にあたって1,200万円の設備を導入し、耐用年数5年・定額法で計算すると、年間の減価償却費は240万円発生します。

減価償却費は、設備を購入したときに取得価額の全額を一度に費用とするのではなく、原則として耐用年数にわたって費用化していきます。そのため、設備投資によって毎期の固定費が増加すれば、損益分岐点売上高も上昇します。

仮に、この会社の限界利益率が40%であれば、年間240万円の減価償却費の増加分を賄うために必要となる追加売上高は、

240万円 ÷ 40% = 600万円

となります。

つまり、この設備投資によって、単純計算では年間600万円の追加売上高が必要になるということです。

設立当初は、「どの設備が必要か」「いくらまで投資できるか」という投資額そのものに目が向きがちです。

しかし、設備投資を検討するときには、投資額だけではなく、投資後に増加する費用を賄うために、どの程度の売上高が必要になるのかという視点も重要です。

損益分岐点分析を行うことで、設備投資後に必要となる売上高を把握し、創業時の売上計画や事業計画が現実的なものかを事前に検討することができます。

なお、減価償却費自体は、現金の支出を伴わない費用です。一方、設備を借入金で購入した場合には、借入金の元本返済などの資金支出が発生します。

そのため、設立当初の設備投資が大きい会社では、損益分岐点による利益面の分析だけでなく、資金繰りについてもあわせて確認することが重要です。

3. 複数事業・複数店舗を比較する

会社全体では利益が出ていても、事業別・店舗別に見ると状況が異なることがあります。

事業や店舗ごとに売上高、変動費、固定費を把握することで、「売上は大きいが利益率が低い事業」「売上は小さいが利益を生み出している事業」などが見えてきます。

単純な売上規模だけではなく、どの事業が会社の利益に貢献しているのかを把握することで、今後どこに経営資源を投入するべきかを検討しやすくなります。

売上を増やすことだけが利益改善ではない

損益分岐点分析をすると、利益を増やす方法は「売上を増やす」だけではないことが分かります。

基本的には、

  1. 売上を増やす
  2. 変動費率を下げる
  3. 固定費を見直す

という3つの方向から利益改善を考えることができます。

先ほどの月商500万円・変動費率60%・固定費150万円の会社で考えてみましょう。

  1. 売上を増やす 売上を500万円から550万円に伸ばせると、変動費率が変わらないと仮定した場合、限界利益は220万円となり、固定費150万円を差し引いた利益は70万円に増加します。
  2. 変動費率を下げる 仕入条件の見直しなどによって変動費率を60%から55%に改善できれば、限界利益率は45%に上がり、損益分岐点売上高は約333万円まで下がります。売上高が500万円のままでも、利益は50万円から75万円に増加します。
  3. 固定費を見直す 固定費を150万円から140万円に10万円削減できれば、売上高や変動費率が変わらなくても、利益は50万円から60万円に増加します。

「売上をあと50万円増やす」のと、「変動費率を5ポイント改善する」のと、「固定費を10万円削減する」のでは、どれが自社にとって実現しやすいでしょうか。

こうした複数の選択肢を数字で比較しながら経営改善を考えられることも、損益分岐点分析のメリットです。

損益分岐点は一度計算して終わりではない

損益分岐点は、会社の状況によって変化します。

人員の増加、給与水準の変更、家賃の増加、仕入価格の上昇、販売価格の改定などがあれば、会社の収益構造そのものが変わるためです。

「今月はいくら売れたか」だけを見るのではなく、「現在の損益分岐点はいくらなのか」「固定費の増加に見合った売上を確保できているのか」まで確認できるようになると、月次決算の数字を経営判断により活用できるようになります。

そのためには、決算のタイミングでまとめて計算するのではなく、毎月の試算表をもとに、継続的に損益分岐点の推移を確認できる体制をつくっておくことが理想です。

クラウド会計などを活用して月次の会計処理を効率化し、早い段階で試算表を作成できるようになれば、損益分岐点や限界利益率などの経営指標についても、よりタイムリーに確認することができます。

会社の「本当の実力」を数字で把握する

売上高が大きい会社が、必ずしも利益を出しやすい会社とは限りません。

売上が増えていても変動費率が高ければ利益は残りにくく、固定費が大きければ一定以上の売上を確保し続けなければなりません。

反対に、売上規模がそれほど大きくなくても、限界利益率が高く、固定費を適切な水準に抑えることができていれば、利益を確保しやすい会社になります。

大切なのは売上高だけを見ることではなく、「どのくらい売れば黒字になるのか」「売上が増えたときに、どのくらい利益が増えるのか」という会社の収益構造を把握することです。

決算書を、過去の結果を確認するための資料で終わらせず、損益分岐点や限界利益といった視点を加えることで、会計の数字をこれからの経営判断に活かすことができます。

自社の損益分岐点が今どの水準にあるのか、今後どの程度の売上を確保する必要があるのかを確認したい方は、お気軽にご相談ください。

本記事は、執筆時点の法令・制度に基づく一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。税制は改正されることがあり、具体的な取扱いはご状況により異なります。実際の判断・手続にあたっては、税務署等の公的機関や専門家にご確認ください。